DS選書
ブログ「くろねこの短語」は、古本くろねこ堂の「今日の一言」がそもそもの始まり。ようするに古本屋のブログでもあるわけで、たまには古本の話題をひとつ。
でも、その前に、レイシスト石原君が福島瑞穂君から発言撤回を求められていた「帰化人云々」の件について、「非常に不快な感じに言われるんだったら自分がそうでないということをね、自分の手で戸籍を証した方がいいんじゃないかと私は思いますけどね」とのたまったそうな。「発言不快なら戸籍を証せ」なんて挑発的な見出しをつけたネット上のニュース(ちなみに現在はタイトル差し変わってます)もあったが、さすがにレイシストの面目躍如だね。つまり、勝手に疑いかけておいて、くやしかったら戸籍持ってきて証明してみろっていってるわけで、この発言の意味するところも差別だということがわかっていないところに、このレイシストの哀れさがある。福島君、躊躇することはない、即刻、人権侵害でもなんでもいいから訴えなさい。徹底して戦うべきだと思う。メディアも、いつまでこんなゲスな男の差別発言を黙認し続けるのだろう。
というわけで、気分を変えて本題に・・・・戦後すぐに自由出版から出版された探偵小説選集に「DS選書」というのがある。おそらく戦後で一番早い叢書といわれ、昭和21~23年にわたって12点が刊行されたというのが通説となっている。ちなみに、「DS選書」の「DS」とは「Ditective Story」の略ですね。
海野十三 「蝿男」、「十八時の音楽浴」、「地球盗難」
横溝正史 「夜光蟲」、「白蝋怪」、「幻の女」
江戸川乱歩 「悪魔の紋章」
大下宇陀児 「街の毒草」、「宙に浮く首」
木々高太郎 「精神盲」
水谷準 「傀儡師」
渡辺啓助 「血笑婦」
以上の12点のうち僕が最初にDS選書と遭遇したのが海野十三の「十八時の音楽浴」だった。戦前から戦後すぐの探偵小説のトリコになった二十歳の頃、神田の古本屋でワゴンセールみたいなところで買ったのを記憶している。おそらく、50円くらいで買ったのだと思う。当時は、桃源社から小栗虫太郎や橘外男、海野十三などの探偵小説が復刻され、いまはなき薔薇十字社からは、大坪砂男の全集2巻や渡辺温の「アンドロギュノスの裔」が刊行されてちょっとした探偵小説ブームだった。横溝正史が再評価されたのもこの頃だったっけ。
「十八時の音楽浴」は、オンライン古本屋を始めた頃に目録に載せたらすぐに売れてしまったのだが、その後本格的にDS選書を探してみてもなかなか見つからない日々が続いていた。そうこうしているうちに、江戸川乱歩の「悪魔の紋章」が手に入った。ところが、版元は自由出版なのだが、「十八時の音楽浴」とはちょっと版型が異なっていた。確か、「十八時の音楽浴」はA6だったと思うのだが、「悪魔の紋章」はB6サイズ。それでも「悪魔の紋章」は自由出版からのものではDS選書でしか出版されてはないはずなので、とりあえず目録には載せてみたのだった。
さすがマニアのアンテナは鋭い。すぐに注文が入り、めでたく売れたのだったが、後日そのお客さんからメールをいただいた。「DS選書」についての数々の疑問を調べ、その結果を知らせてくれたのだ。それによれば、「DS選書」はどうやら21冊刊行されたらしい。その根拠は、江戸川乱歩の「探偵小説四十年」にあるとか。さっそくひもといてみると、どうやら江戸川乱歩は自由出版刊行の探偵小説を「DS選書」としているようで、版型もA6、B6の他に、その中間型もあったのだとか。さらに、改版の折に装丁も変わったりしているのだから紛らわしいことこのうえない。ポウの「われ発見せり(ユウレカ)!」の出版予告もあったというから、それをいれれば22点ということになる。
いまなら叢書を編纂する時には、版型はもとより、デザインなども統一するのは当たり前だけど、戦後すぐにとにかく出版することを最優先した結果、こうした混乱が起きたのだろうことは容易に想像がつく。それはともかく、編集者の情熱のほとばしりが「DS選書」を世に出したのは間違いない。活字に飢えていたあの時代の編集者の情熱や心意気といったものが、戦後の出版界をどれだけ後押ししたことか。愚にもつかない出版物が氾濫する時代に、改めて編集者とはなんぞやということを、「DS選書」を通して考えてしまう編集者のはしくれのくろねこなのであった。
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